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SERVICE獣医部門

蹄病

運動器疾患は繁殖障害、乳房炎と並んで、乳牛の三大疾病の1 つと言われています。運動器疾患の中でも最も多いのが蹄病です。中でも感染性の蹄病の代表は趾皮膚炎(しひふえん:イボ状皮膚炎、PDD、DD)であり、蹄角質性疾患の代表は蹄底潰瘍(ていていかいよう)と白帯病(白線病)ですが、いずれも世界中で問題視されています。

では蹄病はどれくらい農場の生産性に負の影響を及ぼすのでしょうか。蹄病による各酪農場の損失金額を正確に導き出すことは難しいのですが、ある報告では1 頭の跛行牛で約13 万円の損失になるとされています。その損失金額の内訳は、乳量の低下が最も大きく、次いで治療コストや繁殖性の低下などが含まれます。蹄病と繁殖のデータの関連についての当社集計では、蹄病に罹患した牛の平均空胎⽇数は延⻑し、平均授精回数も増加するという結果になりました。そして、蹄病は再発しやすい疾患です。重度の蹄底潰瘍は蹄骨を変形させることがありますし、DDも慢性化して排菌し続けます。ですから、「跛行が見られたら治療すれば良い」というものではなく、予防することが重要です。

当社で実施している蹄病治療ではまず、治療の前に蹄の形を整える維持削蹄を必ず行い、その後、治療削蹄に入ります。蹄病治療を含めた蹄管理技術については、国内外から情報収集し、⽇々改善を行っています。

蹄病の発生割合について当社では、牛群管理ソフト(DC305)を用いて集計可能です。2016 年〜2017 年に診療した蹄病の割合でも、DD、蹄底潰瘍、白帯病で全体の70%以上を占めています。この3 つの疾患についてそれぞれ解説します。

 

趾皮膚炎

趾皮膚炎はDigital Dermatitisの頭文字を取って一般的にDDと呼ばれています。蹄病の中でDDは感染性の疾患に分類されます。感染症ですからDDに罹患している牛から他の牛へ伝染する可能性があります。そのためDDを蔓延させないための感染コントロールが重要です。

DDは疾患のステージによってM0~M4.1(さらにH過角化性/P増殖性)まで細かく分類されています。

 

DDはM1やM2の初期の適切な治療で完治が見込めますが、M2の状態で治療が遅れてしまった場合や、増殖性に進行した場合には、抗生物質の塗布による処置をしても完治せず、M4へ移行します。M4は常にDD発症のリスクのある不顕性感染の状態です。M4への移行を防ぐためには、個体の早期発見早期治療と蹄浴を組み合わせた群管理が重要です。

DDの予防法として蹄浴があります。M0→M1、M1→M2、M4→M4.1の段階を食い止めるための予防手段で行うことは有効ですが、治療としての蹄浴を行うことは危険です。つまり、跛行を示すようなM2には効果がないばかりではなく、蹄浴槽内に菌が溜まり汚染源になりかねません。ですから、M2に対しては早期に個体を摘発して個別の治療で対応し、片方でM2への進行は蹄浴で防ぐという「両輪」でコントロールを進めていくのが効果的でしょう。

 

蹄底潰瘍

蹄底潰瘍は、蹄の軸側(じくそく:趾間に近い位置)寄り、蹄踵(ていしょう:かかと)寄りの位置(蹄骨の後端が接するポイント)の真皮が圧迫を受け、ついには角質生産ができなくなって潰瘍を形成する角質疾患です。後肢外に多く発生し、次いで前肢内蹄にも認められます。蹄底潰瘍の位置の真皮がダメージを受ける原因としては

①蹄底潰瘍の位置に荷重がかかった

②もともと蹄角質が脆い

が考えられます。

 

① は「生体力学」を用いて理論化されます。牛(特に乳牛)の股関節は幅が広いために、左右の体重移動によって外蹄への荷重変動が激しくなります。そして、その激しい荷重の増減が蹄底角質の増産を促し(刺激に対して組織が反応する)、さらに増えた蹄角質が圧迫の原因になるという「悪循環」のためです。しかしながら、生体力学的原因も、放牧のような土の上なら荷重は吸収されるのですが、コンクリート床のような硬い床面で問題になります。要するに現代の酪農ではほぼ必然となります。また、さらに憎悪させる事象もあります。

 

② は「蹄葉炎」と呼ばれる潜在性の病変(蹄内部の循環障害)によって、脆い角質の生成や蹄角質の連結が弱まることが問題となります。その結果、蹄底潰瘍だけでなく白帯病の原因(蹄底と蹄壁の連結が弱まる)にもつながります。蹄葉炎は栄養性と負重性のものに要因を区分できますが、たいていはそれらの複合で起こると考えられます。負重性の蹄葉炎は①と関係するのですが、負重によって蹄内部の循環障害が助長されることは想像できます。一方の栄養性の蹄葉炎が問題を複雑にします。栄養性の蹄葉炎はルーメンアシドーシス(RA)に起因します。RAによって産出されるプロスタグランジンやヒスタミンといった起炎物質が蹄内部の循環障害を促し、第一胃内で殺滅した細菌からのエンドトキシンも悪影響を及ぼします。

 

その結果、①②が絡み合った「複合病」としての蹄病が発症してしまいます。

蹄底潰瘍の治療は、壊死組織の除去と免重(病蹄の矯正的削蹄とクッション装着、および健康蹄へのブロック装着)を主に行っています。

 

 

蹄底潰瘍の治療は浮いた角質の除去と免重を行い、必要な場合にはブロック(ゲタ)を装着します。

 

白帯病

白帯病も蹄の角質疾患の一つです。白帯とは、蹄底の角質と蹄壁の角質が接着している接合組織であり、肉眼で白く線状に見えることから白線とも白帯とも呼ばれています(欧米ではwhite linen日本では白帯)。蹄底と蹄壁という異なる角質の繋ぎ目であることから、他の部位より弱く、亀裂(白帯裂)を生じやすい(特に蹄踵寄り)のです。

蹄底潰瘍が起立時間の延長などの垂直方向の圧力で生じると考えられていますが、白帯病は横の圧力(水平方向の圧力)で生じると考えられています。最もわかりやすいのは、急な旋回です。したがって、密飼いと社会的な順位争いや、ハンドリングエラーでも、蹄に衝撃が加わってしまうと白帯裂、そしてその後の感染で白帯膿瘍を発症します。また蹄底潰瘍と同様に暑熱ストレスの影響も見られます。したがって、白帯病の基礎疾患として蹄葉炎の存在も注視すべきです。

 

 

白線病の治療では、浮いた角質・壊死組織の除去と免重(病蹄の矯正的削蹄とクッション装着、および健康蹄へのブロック装着)を行います。白線病では病変が蹄壁に侵入している場合があり、蹄壁のチェックは欠かせません 。

株式会社トータルハードマネージメントサービス